少し前に「老後2000万円問題」がメディアで連日取り上げられていたのは皆さんもご存じの通りです。
ただ今回6月3日に発表された金融庁の「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」がとんでもなく的外れなおかしな報告書だったのかと言うとそうではないのです。
人々の不安を煽って注目を集めたいマスコミと、参院選を控えるタイミングでこの問題を政治利用しようとした野党と、選挙への影響を最小限にしたいとの焦りから報告書の受け取り拒否なんて対応をした与党。

それぞれの人の思惑があって報告書の内容が正確に伝えられず、誤解や勘違いを生んでしまったのは残念でした。

報告書が何を伝えたかったのかをちゃんと理解すればこんな問題にはならなかった様な気がしますね。
報告書の本質を理解したうえで、これからどうしていけばいいのかをファイナンシャルプランナーの視点で7つのポイントに整理して解説していきます。
ポイント1:公的年金への誤解
まずそもそもの話として公的年金の事を誤解している方がすごく多いなと思います。
日本では1961年に公的年金制度がスタートしましたが当時は定年が55歳、平均寿命は男性が65歳で女性が70歳と言う時代です。
それから見ると今はこれだけ平均寿命も延びているので、その頃設計された制度では当然矛盾が生じてきますから何度も内容が見直されて今に至っています。
ただ過去を振り返って今まで一度も「公的年金は老後の暮らしを全て賄うもの」なんて時代はありませんでした。

いつの時代も「公的年金にプラスアルファの退職金や貯金があった方が老後は楽に暮らせるよ」って考え方は変わってないです。

今回の報告書は「2000万円」と言う数字が具体的に発表されたからインパクトが強かったんだね。
この事を前提としてまず押さえておきましょう。
ポイント2:報告書の内容
では本題の報告書の内容を見ていきましょう。
全部で56ページですがそれほど難しい言葉を使っている訳でもなく、ちゃんと読めば30分もかからずに読める内容だと思います。(あの方は全部読んでないって言ってましたが・・・)
1.単身者が増え少子高齢化が進んでいる
2.健康寿命と平均寿命の差
3.認知症の増加
4.平均的収入と支出の差
5.退職金制度の減少
6.不足額はライフスタイルによって大きく異なる
7.ライフプランを検討し信頼できるアドバイザーに相談
8.つみたてNISAやiDeCoの活用
内容を見ても特に目新しい事は言ってなくてごく普通の事だったり以前から分かっていた事だと思うので、目くじら立てて「これまでの政府のスタンスと異なる。正式の報告書として受け取らない。」なんて言う必要なかったと思います。
野党は野党で「2000万円の赤字を自分で用意しろというのか!」「100年安心の年金制度と言うのは嘘だったのか!」と的外れな事を言っていましたね。
公的年金は「積立方式」ではなく「賦課(ふか)方式」なので、将来的に年金額が少なくなる事はあるかもしれませんが制度自体が破綻する事は現実的には無いと思います。
賦課方式は、年金支給のために必要な財源を、その時々の保険料収入から用意する方式です。現役世代から年金受給世代への仕送りに近いイメージです。
現役世代が高齢になって年金を受給する頃には、子どもなどその下の世代が納めた保険料から自分の年金を受け取ることになります。積立方式は、将来自分が年金を受給するときに必要となる財源を、現役時代の間に積み立てておく方式です。
厚生労働省いっしょに検証!公的年金(賦課(ふか)方式と積立方式)より

この報告書の中で重要なポイントとなる所をもうちょっと掘り下げていきます。
ポイント3:必要な金額は人それぞれ
報告書の要点6の部分ですが老後に資金が足りないのか足りるのか?いくら足りないのか?って話は人それぞれ違います。

これは言うまでもなく当然ですよね。
その人の家族構成、職業、退職金の有無、持ち家か賃貸か、ライフスタイル、健康状態、寿命、資産状況などによって変わってくるので、あくまでも一つのモデルケースだと2000万円足りないという例です。
相談を受けた時に「2000万円ないとダメなんですよね?そんなに貯める自信がない。」とおっしゃる方がいますが、「人それぞれ前提条件が違うのでご自身のライフプランをたてて確認してみましょう。」とお伝えしています。
ポイント4:自分自身のライフプラン
報告書では「夫婦2人暮らしで支出が約26万円、収入が約21万円で月5万円の不足」との例が記載されています。
この月5万円の不足分を65歳で定年退職後から仮に30年間貯蓄を取り崩すと仮定すると1800万円が必要になるという内容です。

でも自分に置き換えてみたら前提条件が全く違うと思います。

確かに他人のプランじゃ参考にならないから自分の場合で考えないとね・・・。
今の生活から現状を把握して今後どう変化していくかを予測してライフプランをシミュレーションしていきます。
そこで初めてこのままだと厳しいなとか、少し改善すればいけるかなとか見通しをたてる事ができるんです。
ただ注意点が一つあって「ライフプランを誰に作ってもらうか」で結果が大きく変わる事があります。
例えばハウスメーカーや保険代理店もライフプランを作っていますが、それらはここで言うライフプランと目的が大きく違います。
お客様の人生設計と言う意味合いよりも住宅を購入してもらう為のライフプランだったり、保険に加入してもらう為のライフプランである事が多いです。

それじゃ全然意味がないですね。
報告書にも「信頼できるアドバイザーに相談すべき」との記載がありますが、金融機関とのしがらみがないFPにしっかりとしたライフプランを作ってもらう事の重要性が分かると思います。
ポイント5:健康に長く働く
では現状を把握して、これからを予測した時に「こんなに足りないのか。。。」なんてガッカリするのはまだ早いです。
ちょっと工夫する事でライフプランをガラッと変える事は可能なんです。
就労延長とは?
一つ例を挙げるとすると働く期間です。
日本人は他の先進国と比べても高齢者が元気に長く働いている国と言えます。
今回の報告書でも統計が出ていましたが65歳から69歳の男性の55%、女性の34%が働いており世界的に見ても断トツの高水準です。
長く働く為には健康である事が前提になりますので若いうちから生活習慣に気を配りながら過ごす必要もありますが、就労延長の効果はとても大きいのです。

仮に65歳から70歳まで就労延長した場合を考えてみましょう。
公的年金の繰り下げ受給とは?
60歳から65歳までの再雇用時に給料が70%程度になってしまう方が多いので、仮に30万円の手取りだったご主人が再雇用後20万円の手取りになり65歳以降も続き、奥さんは今まで通り月8万円程度のパート収入と言う世帯で考えてみます。
夫婦合わせて28万円の手取りがあれば公的年金を70歳まで受取らずに繰り下げ受給する事も可能だと思います。
公的年金を繰り下げ受給すると1か月繰り下げるごとに0.7%受給額が増額されます。

最大70歳まで繰り下げる事で42%増額されます。

仮に年間100万円の年金額の方なら142万円になるんですね。それは魅力的!
ただ夫婦の年齢差(加給年金がある場合)や何歳まで生きるかによって「繰り下げた方が得なのか?」は変わってくるので個別にシミュレーションしてみないといけません。
仮に70歳まで繰り下げたとすると5年間で500万円を受け取らないが、70歳から受け取る年金は142万円に増えるので増えた分が500万円に追いつくのは81歳の時になります。
81歳まで11~12年生きると5年間繰り下げる場合の「損益分岐点」となります。
先程の夫婦の例で考えると月額21万円だった年金が5年繰り下げた場合は月額でおよそ29万円になります。
計算上は95歳まで貯蓄が無くても暮らしていける事になります。
でも現実には70歳まで雇用してもらえるかという問題や親の介護問題、自分の健康状態の悪化など不確定要素があるのでそんなにうまくいかないケースもありますが、「2000万円足りない」って話と比べると何とかなる様な気がしませんか?
ポイント6:運用の前にすべき事
最近はつみたてNISAやiDeCoなどの投資を積極的に活用するべきとの意見をよく見かけます。
報告書の要点8でも触れていますが若いうちからコツコツ積立てて運用するのは私も賛成です。

ただ順番的にはその前にやる事があるんですよね。

その前にやるべき事とはなんでしょ?

それは家計の無駄を省く見直しをする事です。
いくら積立てて運用したって無駄な出費が多い状態なら何の意味もありません。
実際に個別相談をしていると運用して利益を出す事より、家計を見直して無駄を省く事の方が家計に与えるインパクトが大きいご家庭も結構あります。

家計を見直すとなると色々我慢しないといけないんですよね?

そう誤解している方が多いんですが私の家計見直し提案は「楽に節約する」がモットーです。
楽に節約する為のポイントは「固定費を見直す」です。
固定費は一度見直しが出来ればその後も継続して効果が続きます。
見直しやすい固定費の費目としては
1.住宅費
2.医療保険
3.生命保険
4.自動車保険
5.火災保険
6.通信費
これらを見直して初めて運用する準備が整うと考えましょう。

ポイント7:お得な制度は活用する
家計を見直ししてスッキリできたところで「つみたてNISA」や「iDeCo」など効果的な制度をぜひ活用していきましょう。
ただこれらの運用は元本が保証されていないので必ずしもやらなくてはいけない訳ではありません。
あくまでも余裕資金の中で最後の最後に取り入れるかどうするかを検討するべきです。
運用する場合はコツがあり次の3つを基本に考えましょう。
1.長期的な運用
2.相場の上げ下げで一喜一憂しない
3.低コストな運用
一つずつ見ていきましょう。
長期的な運用
つみたてNISAの場合は運用益の非課税期間が20年あり、iDeCoは60歳までの所得控除と運用益の非課税期間があります。
どちらも長期的な運用が前提の商品ですので老後資産の準備をするのにピッタリです。
複利効果を最大限生かす為にも長期運用する事がとても重要で、最終的に大きな差になってきます。
相場の上げ下げで一喜一憂しない
よく相場が下がってしまったらと心配する方がいますが、長期的な運用の場合は相場が下がっても全然気にする必要がありません。

なんなら相場が下がってくれた方が安値で沢山買えるからラッキーって事なんです。

下がった方が良いってなんか変な感じがする。
具体的に株を購入する時の例で見てみましょう。
株価 | 購入株数 | 投資金額 | ||
Aさん:1万円分 | Bさん:100株 | Aさん:1万円分 | Bさん:100株 | |
1月:85円 | 117株 | 100株 | 9945円 | 8500円 |
2月:115円 | 86株 | 100株 | 9890円 | 11500円 |
3月:90円 | 111株 | 100株 | 9990円 | 9000円 |
4月:110円 | 90株 | 100株 | 9900円 | 11000円 |
合計 | 404株 | 400株 | 39725円 | 40000円 |
この表は1~4月に株を購入した際の株数と金額をまとめたものです。
Aさんは購入金額を決めて毎回1万円づつ購入し、Bさんは購入株数を決めて毎回100株づつ購入していきます。
するとAさんは株価が下がった時に多く購入し、株価が上がった時には少なく購入する事になります。
Bさんは一定の株数で購入するので株価が高いとお金が多くかかり、株価が下がると少ないお金ですみます。
結果的にはAさんの方が多くの株数を持つ事ができ、投資金額も低く、更に平均株価(98.32円)も低くする事ができるのです。
長期間に渡って一定額をコツコツ積み立てていく事で、ある程度はリスクを限定する事ができるという事ですね。
低コストな運用
最後は運用につきもののコストについてです。
先程見ていただいた様に長期に渡って複利運用する事が効果的という事はご理解いただけたと思いますが、折角出た利益も手数料などのコストが高ければなかなかペイする事ができなくなってしまいます。
つみたてNISAなどは手数料が低いものがそろっていると思いますが、その中でも更に手数料(信託報酬)が低いものの方が利益を出しやすいのは間違いありません。
この運用の3か条を意識すれば「安値で買わなきゃ」とか「高値で売らないと」なんてピリピリする必要もなく「ほったらかし運用」が可能になるので楽この上ない運用になりますよ。
まとめ:不安を解消するならライフプランをたてよう!
色々お話してきましたが結局のところ、あなたの老後問題が大丈夫なのかどうかはあなたのライフプランを作ってみないと分からないという事です。
これから日本は「2024年には3人に1人が65歳以上に」なり「2042年には高齢者人口が4000万人に」なります。
その後「2065年には総人口が9000万人を割込み2.5人に1人が高齢者」という時代が来ます。
この時代の流れを変えるのは難しいでしょう。
でもそんな中で「ライフプランを立て⇒家計を見直し⇒コツコツ運用する」と言う流れを作る事ができれば「老後2000万円問題」は恐るるに足らずです。
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