この記事では「寄与分」について詳しく解説していますが、あまり聞きなれない言葉ですよね?

人によっては全然関係ないって事もありますが、その方の状況によってはこの寄与分がもめごとの原因になるケースもあるんです。
「もしアナタの家族で相続が起きたら?」と考えてみて下さい。

多くの方は「うちは大丈夫だよ~」「そんなに財産がないからもめないよ」と簡単に考えてしまいますが本当にそうでしょうか?
相続でもめるのは何もお金持ちに限った話ではありません。
もしアナタがこれからお伝えするパターンに当てはまる様ならしっかり準備しておく事をオススメします。
寄与分とは?
通常、相続が発生した時は被相続人の財産を法定相続分にしたがって分けることになります。
例えば相続人が「二人の娘だけ」だった場合はこの姉妹で遺産を分ける事になるので、客観的に見れば「半分ずつ分ければ問題ない」と思いますよね?
でも当事者であるこの姉妹の中には「そんなの納得いかない!」と不満を持つケースがあります。
例えば姉が家に残り親の面倒を見る場合、親が歳をとって介護が必要になったりその期間が長くなればなるほど負担はとても重くなってきます。

介護する為に仕事にも影響が出たり、婚期を逃してしまうなんて事があればなおさらですよね。
そんな中、親が亡くなって相続の話になった時に結婚して家を出て介護していなかった妹は「家はいらないから、その分の代償金を」と当たり前の法定相続分を要求し、家に残って介護していた姉は今まで好き勝手していた妹に同じだけの遺産を渡す気には到底なれない。
こんなケースは実はとても多いのです。

民法では、この様に「相続人が被相続人に対して行った貢献を遺産分割に反映させる制度」があり、それが「寄与分」と言う制度です。
寄与分が認められた相続人はその貢献度に応じて、他の相続人より財産を多く相続する事ができます。
寄与分が認められるケースとは?
ここまで聞くと「自分も寄与分の申請ができるのでは?」と思った方もいるかもしれませんが、2つの理由から実際に寄与分が申請されるケースや認められる場合はあまり多くありません。
理由その2:寄与分の要件が厳しい
何となく想像できると思いますが一人の相続人が寄与分の主張をし始めると「被相続人への貢献の話」ですので、他の相続人は面白いはずがないですよね。

そして貢献度は数字の様に分かりやすく表現できるものではない為、どうしても感情的な対立になりがちです。
そうなると話し合いでは収拾がつかず、裁判所などでの調停に発展してしまい解決までとても時間がかかる事になります。
理由その2で書いた寄与分が認められるための要件ですが主に4つポイントがあります。
②1年以上など長期間従事しているか「継続性」
③片手間で行ってはいないという「専従性」
④被相続人との続柄から通常期待される程度を超える行為か
この④が結構重要で例えば同居している親子がいて年を取った親の面倒をある程度見ることは法律上当然とされています。
例えば「親の食事の世話をしていた」や「病院の送迎をしていた」という内容では「同居している親子なら当然」と言われてしまうケースが多いようです。

逆に認められるケースは同居している親子でも普通はそこまではしないよねと言う場合です。
例えば「ヘルパー任せにせず自分で親の介護をしていた」とか「親の家業を手伝うために仕事を辞めて無償で手伝っていた」と言う場合は認められる事もあるでしょう。
寄与分の算定方法
寄与分の算定には具体的なルールがある訳ではなく「寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮する」という抽象的な規定があるだけです。

実際には家庭裁判所の裁量に委ねられている現状なんですね~。
過去の判例などから5つのケースに分けて計算例をあげるので一つの目安にしていただければと思います。
家事従事型
被相続人の事業に対して無償に近い形で従事し被相続人の財産増加に貢献したケースで農業などでよくみられるタイプです。
金銭等出資型
例えば「相続人である妻が結婚後も共働きを続けて被相続人である夫の名義で不動産を取得する際に自分が得た収入を提供する」この様なケースを金銭等出資型といいます。

同じ様に借金返済の為にお金を贈与する場合なども寄与の対象となりますが、会社への出資金は原則として寄与にはあたらないので注意しましょう。
1:妻の夫に対する不動産取得の為の金銭贈与
2:不動産の贈与
3:不動産の使用貸権
4:子の親に対する金銭贈与
療養看護型
相続人が被相続人の療養看護や介護を行ない、看護費用の支出を免れるなど相続財産の維持に寄与した場合が療養看護型に該当します。

家業従事型と同じ様に被相続人との続柄や期待される以上の寄与行為か?が問われるのと、持続性や専従性も求められます。
また、この療養看護型は「病気の看護」と「老親の看護」の2種類あり「老親の看護」の方が貢献度は高いと判断されますが、介護保険の導入で「老親の介護」に関する寄与は以前よりも認められにくくなっています。
1:実際の療養看護
2:費用負担
扶養型
相続人が被相続人を扶養し生活費を負担する事で、相続財産の維持に寄与する場合を扶養型といいます。
ただ、夫婦は互いに相互扶助の義務を負っていますし直系血族や兄弟姉妹も互いに扶養する義務を負っているので認められるかどうかの判断は難しいところです。
1:現実の引取り扶養
2:扶養料の負担
財産管理型
被相続人の財産管理を行うことで「管理費用の支出を免れた場合」や被相続人所有の土地の売却に際に「同じ土地上の家屋の賃貸人の立ち退き交渉やその他の書類手続き、及び土地の売却代金を増加させた場合」などがここに該当します。
1:不動産の賃貸管理、占有者の排除、売買契約締結についての関与
2:火災保険料、修繕費、不動産の公租公課の負担
遺留分・特別受益・遺言との関係
相続の場面では「遺留分」「特別受益」「遺言」など別の制度もあり、寄与分と合わせてどの様な関係になるのかも知っておかなくてはいけません。
遺留分
「遺留分」とは相続人に最低限の相続財産を保証すると言う制度です。
仮に寄与分を認めた場合に他の相続人の取り分が低くなりますが、寄与分によって侵害された他の相続人の遺留分は「遺留分侵害額請求」によって取り戻せるのか?
その場合に寄与者はもらった財産を返さなければいけないのか?という点です。

民法上は寄与分と遺留分の間で明確な優先順位は規定されていませんが、過去の判例を見てみるといろいろなケースがあります。
遺留分侵害額請求の対象財産は「遺贈」と「贈与」に限られる(民法1046条)ので、寄与分に対する遺留分侵害額請求はできないという見方があります。
ただ一方で、過去の裁判では遺留分を侵害するほどの寄与分が疑問視されたケース(東京高決平成3年12月24日)や遺留分侵害額請求をされた寄与者が自己の寄与分を理由に請求額を減額はできないと言うケース(東京高判平成3年7月30日)もあります。

ですから寄与分と遺留分のどちらが優先されるかはケースバイケースと言えるので、あなたの場合はどうかという事を弁護士と相談しないといけません。
特別受益
「特別受益」とは相続人のなかで生前贈与や遺贈によって多額の財産を受取っている場合に法定相続分で分割を行うと不公平が生じるので、これを防ぐために特別に受けた利益も計算に入れて正しい分割を行う制度です。

例えば、親から「生活費の足し」として現金300万円を受けとった場合は「贈与」と言えるので特別受益の対象となり、寄与分の主張は認められません。
逆に寄与分が特別受益を上回り300万円の寄与分が認められた場合は、みなし相続財産から寄与分300万円を差し引いた金額で相続財産を算定する事になります。
遺言
被相続人の意思表示をする手段として「遺言」がありますが、遺言で寄与分を指定する事はできません。
寄与分は相続人による遺産分割協議か家庭裁判所の調停(審判)で決めることになっているので、寄与分を与えるとか逆に寄与分を一切与えないと指定する事もできません。
相続人以外の特別の寄与とは?
今までのルールでは「寄与分は相続人に認められた制度」だったので相続人以外の第三者は寄与分を主張する事はできませんでした。

例えば、父親と息子夫婦が同居していて父親は重度の介護が必要だった場合、実際に介護をしていたのは息子ではなく妻だったと言うようなケースです。
その様な状況で父親に相続が起きた場合に、息子夫婦は父親への介護に対する妻の貢献を相続で加味してほしいと思うのは当然です。
こう言ったケースを考慮して令和1年7月1日に民法が改正され相続人以外の親族が被相続人の財産の維持や増加について特別の寄与をした場合、その親族が相続人に対して寄与に応じた金銭の請求を認める事になりました。
この様な「特別寄与料」の主張ができるのは「6親等内の血族、3親等内の姻族」となっています。
まとめ:日々の記録が重要

寄与分は本来「相続人間の公平性」や「被相続人に貢献した人の救済」の為なので積極的に活用されるべきだと思います。
ただ相続が起きたときに寄与分の主張をしたくても、それを裏付けるための資料がなくて他の相続人や裁判官を説得できず寄与分の主張を諦めなくてはいけないケースもあります。
「裏付け資料」は領収書の保管や日々の記録を日記や手帳に残しておくだけでも効果があります。

もしもの時の為に可能性があるかもと思った方は日々の貢献を記録することを始めてみると良いかもしれません。
コメント